⇄ 文化的異形 (2)
3 系譜の存在
山奥の老女
山姥は山の奥深くに住む超自然の老女であり、東北ではこれとともにヤマハハの話が語られ、遠野の人々は同じものと見ていた。飢饉のとき老婆を山に捨てる姥捨ての習わしから生まれた、としばしば読まれる。だがその習わしは実際の慣行としては記録されていない。これは伝説の素材であり、そう指摘したのはほかならぬ柳田国男で、彼はこの筋をインド由来の仏教説話にまでさかのぼらせた。典拠が支えるのは別の、より古いことである。山姥の背後には山の神の祭祀から零落した姿、すなわち山の神に仕えた女があり、それが年月を経て人を食らう者となった。ゆえにその二面性は話の矛盾ではなく出発点である。山は養い、山は殺す。彼女はその両方を同時に体現している。
その姿と、なしうること
地方ごとの描写はほとんど一致しないが、この点では一致する。背が高く、髪はきわめて長く、肌は目立って白く、口は耳まで裂け、眼光は鋭い。伝えによっては髪の下に隠れた第二の口が頭のてっぺんにあるとし、この特徴のために二口女と取り違えられる。蛇のように動いて手の代わりをつとめる髪は、本来その二口女のものである。山姥は戦わない。欺くのである。その手立ては歓待であり、道に迷った者に差し出される焚き火と温かい椀であって、だからこそ真の力は姿を変えること、必要がなくなるまで無害な老婆で通すことにある。昔話ではさらに思いのままに変化し、巨大にも微小にもなる。いくつかの話ではそれが身の破滅を招く。数百年を生き、見た目には老いない。
昔話と絵と能
三つの昔話が彼女を民の記憶に刻んだ。「牛方山姥」では牛方を追って自分の小屋まで至り、そこで煮られて死ぬ。「三枚のお札」では寺の小僧が札を投げて川や山に変えながら逃げ、和尚が小さくなれと言いくるめて始末する。「天道さんの金の鎖」では二人の子が天から下りた鎖で逃れ、彼女は蕎麦畑に落ちる。蕎麦の茎が赤いのはそのときの血のためだと語られる。姿を定めたのは鳥山石燕で、一七七六年の『画図百鬼夜行』に、髪を垂らし目を伏せた姿で描いた。そして世阿弥作と伝える能『山姥』は、彼女を別のものへ引き上げる。山姥を演じて名を成した舞の女が本物に出会うのだが、その本物は道端の化け物ではなく、世界の山々をやすみなくめぐり歩く老女である。これが思索の山姥であり、昔話の山姥を打ち消すことなく並び立っている。
金太郎の母は一七一二年に現れる
足柄山で英雄の子を育てる情け深い山姥は、この人物のより広く知られた半面であり、同時により新しい半面でもある。古い説話に由来するのではない。芝居のなかで生まれたのである。一七一二年七月、大坂の竹本座で、近松門左衛門が浄瑠璃『嫗山姥』を初演した。これは能『山姥』を源頼光と四天王の世界と掛け合わせた作である。そこで遊女八重桐はついに山姥となり、怪童丸と呼ばれる子を産む。この子がのちの武人、坂田金時である。金太郎という通称が広まるのは江戸中期以降のことだ。一八〇〇年ごろ、喜多川歌麿はこの母子に三十点を超える錦絵を捧げ、その像を反転させきった。白髪を振り乱し口の裂けた老女は、子の髪を梳き、あるいは歯を染める若く美しい女として描かれるようになる。この半面は消すのではなく、年代を付して示すべきである。昔話の人食いと舞台の母は、二百年を隔てて読まれた同じ一人なのだから。
遺物
象徴
元素
土陰
数字
100
色
石灰色と骨白色
動物
白蛇, 山狐, 絶滅した日本狼
印章:
特性
力
弱点
行動
耐性
神話
日本の民間伝承は、口承伝統、神話、伝説、妖怪や神などの超自然的存在を包含し、江戸期の鳥山石燕による画図百鬼夜行や今昔百鬼拾遺などの挿絵テキストにまとめられ、神道アニミズム信仰、洪水や干ばつへの生態学的恐怖、滋賀・大阪・京都などの川、湖、田んぼでの自然尊重を反映します。
出典
画図百鬼夜行
鳥山石燕 · 1776
鳥山石燕による妖怪画集。妖怪の古典的な姿を決定づけた影響力ある画集シリーズ(1776〜1784)の一冊。
柳田国男の遠野物語
柳田國男 · 1910
岩手県遠野の口承を、柳田国男が語り手佐々木喜善から聞き取り、1910年に刊行した説話集。日本の民俗学の出発点とされる一冊で、怪異や狐の話とともに、村の習俗と信仰を記している。
よくある質問
山姥は老婆を山に捨てる習わしから生まれたのか。
違う。その遺棄は実際の慣行としては記録されていない。伝説の筋であり、この記事の典拠でもある柳田国男が、それをインドの仏教説話にさかのぼらせた。彼女の背後にあるのはむしろ、山の祭祀から零落した姿である。
典拠ではどのように描かれているか。
背が高く、髪はきわめて長く、肌は非常に白く、口は耳まで裂け、眼光は鋭い。時に頭のてっぺんに第二の口があるとされる。蛇のように捕らえる髪は彼女のものではなく、二口女のものである。
山姥と金太郎はどういう関係か。
母である。ただし一七一二年からのことだ。この関係は近松の浄瑠璃『嫗山姥』に生まれ、そこで八重桐が山姥となり、のちの坂田金時である怪童丸を産む。一八〇〇年ごろ歌麿の錦絵がこれを広めた。
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Bestiarypedia. (2026, August 22). 山姥. Bestiarypedia. https://bestiarypedia.com/ja/beings/oni-yamauba-mountain-witch
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